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2010年2月 2日 (火)

上海防空戦 4

96高志航は、一旦雲の上に出た。そこはまばゆい太陽の光と、きらきらと光る純白の雲が絨毯のように広がる別世界である。左右を遠くまで見渡すが、味方機ばかり。敵の96式中型攻撃機(上のイラスト)の姿は見えなかった。

中国軍が台湾に送り込んでいた諜報員からの情報により、96式中型攻撃機を様々な角度から見た機体形状を全員が頭にたたき込んでいる。見間違えはないはずだ。

次に、彼は左翼を下げ、降下を始めた。機首を雲に突っ込む。21中隊機もこれに続く。一瞬雲が切れた。

「あっ!」

962 と、彼は声を上げた。二枚の垂直尾翼と二発のエンジンを持ち、緑の迷彩色を機体に塗装した巨大な爆撃機の群れに出くわしたのだ。はっきりと日の丸がみえた。

「これが96式中攻か!」

高志航は、心臓が高鳴った。機を旋回させ、追尾に入った。すぐに我がカーチス・ホークの方がスピードで十分に上回ることがわかった。

「これはいけるぞ!」

と、思った瞬間、96中攻の背部銃座の機銃手が彼のホーク目がけて射撃を始めた。とっさに降下し、旋回動作に入る。彼は、下方にも別の96式中攻がいるのを確認、同時に他の21中隊のホークがそこかしこで攻撃を加えているのが見えた。

高志航大隊長は、まず自分を撃ってくるこの機銃手を狙った。何度かの銃撃の末に機銃手は動かなくなった。もはや怖れるものはなかった。100、50、30メートル。再度引き金を引くと、銃弾が96中攻の右翼の付けに付近に吸い込まれていった。一瞬閃光が走り、ばらばらとジュラルミンの破片がはがれてゆく。96中攻は煙を吐きながら急に高度を下げた。目で追っていくとやがて地上で再び閃光が走り、大きな煙が上がった。中国空軍に撃墜された最初の96式中型攻撃機であった。

彼の部下、李桂丹、柳哲生、王文驊の三機は、共同で一機の96中攻を狙っていた。こちらの96中攻も、なすすべもなく杭州と西山の間に墜落していった。

カーチス・ホークが乱舞する中、新田少佐に率いられて台北からやってきたこの9機の96中攻は、落ち着いて爆撃するどころではなかった。それができたのは、わずかに大杉機と大串機であった。しかし、彼らの落とした爆弾は飛行場を通り越し、場外で爆発した。午後4時25分であった。

初陣で一機の96中攻を撃墜した高志航大隊長は、勇躍、着陸態勢に入った。ハンドルを回して、主脚を出す。スロットルを絞ろうかというまさにその時だ。今度は低空で筧橋飛行場を爆撃中の大杉、大串両機と出くわした。

高は大串機に狙いを定めた。

「よし、二機目の撃墜だ!」

照準器のど真ん中に大串機を入れ、機銃を発射しようとした瞬間、96中攻の機銃手が撃った弾が、高の右翼に当たった。そして次の弾丸がエンジンに命中、シリンダー一個を砕いた。出力が急低下する。高も構わず引き金を引く。合計73発もの命中弾を大串機は浴びた。搭乗員も弾を浴び重傷を負った。左エンジンに二発食い、やがて停止した。大串機は右エンジンだけでフラフラと台北に向けて飛び続けた。一方、高志航のエンジンも、煙を吐き出していたのが、やがて小さな炎となった。高は急いで大串機から離れなんとか着陸までこぎ着けた。

新田少佐と途中で別れ、広徳飛行場の爆撃に向かっていた浅野少佐率いる9機の96式中攻は、迎撃する敵機が全くいない中、冷静に爆撃を開始。しかし全ての爆弾が飛行場の外の田んぼに着弾、稲をなぎ倒しただけだった。

浅野少佐部隊の9機は、2発だけ250キロ爆弾を残して、台北への帰路についた。この2発は、杭州筧橋飛行場に落とすために取っておいたのだ。と、銭塘江の上空で、一機の新ホークと出くわした。22中隊、鄭少愚分隊長の機である。彼はここぞとばかりに射撃を開始、狙われたのは小川一空曹の操縦する96中攻である。おびただしい銃弾を浴び、燃料タンクに穴があいた。徐々に高度を落とした。それでも、ふらふらと低空を這うように台北へ向けて飛び続けた。

浅野少佐部隊は、筧橋飛行場上空で最後の2発の爆弾を投下した。この爆弾も飛行場の外へ落ちてしまったが、引き込み線に止まっていた燃料輸送貨車に命中、大火災が生じた。

この爆弾投下を最後に、8月14日の96中攻による世界初の渡洋爆撃は終わった。後は台北松山飛行場まで無事に機を連れ戻すだけである。

松山飛行場では、台北憲兵分隊長、林秀澄が、全機無事の帰りを待っていた。

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参考

「支那事変史」皇徳奉賛会

China Journal September 1937

「上海時代」松本重治

「林秀澄談話速記録Ⅱ」

「一个女間諜」許洪新

「中国的天空」中山雅洋

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